(1)歌のしおり

 今回のテーマは『歌本』。
 歌本とは歌詞・譜面を収めた小冊子のことで、ここでは特に『平凡』『明星』『近代映画』等の芸能月刊雑誌が付録にしていた、ヒットソングや新曲を中心とした歌本にスポットを当てていこうと思う。そのルーツには諸説があるようだが、明治時代の書生節の演歌師が歌詞を刷った紙を売ることで収入を得ていたことに、その原点が認められるのではないだろうか。
以下、うちの資料室にある歌本の中からをめぼしいものを紹介していくことにする。

コロムビア歌の花籠100選(左) 日本コロムビアが昭和46年頃に作った『コロパック8』のための歌本。販促用であろうか。
カラオケの黎明期で、当時は8トラックという複雑な動きをするカートリッジ・テープがカラオケの主流だった。ちなみにミノルフォン・レコードでは昭和40年代前半、カラオケバージョンをシングルレコードに収録するという、現在のCDシングルと同じことを行なっていた。

芸能雑誌の付録の歌本を見るまえに、昔、料理屋・料亭などで客に配られていた『歌のしおり』を押えておきたい。名刺よりやや大きいサイズで、流行歌、とくに日本調・演歌といった宴会に相応しい歌の詞が収録されており、長期にわたって相当な種類・判が出版された。

歌のしおり

(上)昭和30年代中頃の『歌のしおり』。全国の民謡、端唄・小唄・俗曲が主で、戦前の『懐かしのメロディー』、『最新ヒットソング』は後ろ三分の一のページに収録されている。

(下)下の2冊は昭和40年代中期のもの。体裁は殆ど変わらないが、最新ヒットが中心で、次いで懐メロ、民謡、軍歌となっている。

歌のしおり
うたの手帖

 こうした『歌のしおり』が利用される場合の伴奏は、座敷なら芸者さんの弾く三味線、場末の酒場なら流しの兄さんのギターと相場が決っており、流行歌だと手拍子でアカペラなんてこともよくあった。
 昭和20~40年代は歌謡曲の世界でもいわゆる『お座敷ソング』というジャンルがあったくらいで、貸席で芸者をあげ酒宴を行なうということに愉しみを見出す種類の人間が多かった。

 会社の接待でも頻繁にお座敷が使われ、甚だしきは性的饗応のセッティングまでする場合があり、発注側はふんぞり返り、受注側は平グモのようにへいつくばって、おベンチャラをたらたらと述べているという、まことに日本らしい風景がそこかしこで見られたものである。

 現在ではお座敷は過去の遺物となり、カラオケの得意なコンパニオンが芸者を駆逐しつつある。カラオケボックスが一般化するようになってからは、お座敷は世俗の感覚とはズレている方々、たとえば国会議員などのテリトリーとしてかろうじて命脈を繋いでいるだけである。

 また、かつての『歌ごえ喫茶』においてガリ板刷りのロシア民謡集が頒布されていたことも歌本の歴史のエピソードの一つとして押さえておかねばならないだろう。

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