あの日に帰りたい。東京キャンティ物語
他人の歌をうたうと、ヘタなのがバレてしまうことがある。
他人に歌われてはじめて名曲であることがわかる歌がある。
昔、ニューミュージック系のアーチストが軒並みテレビ出演を拒否した時代がありました。彼らは心変わりして今では積極的にテレビやCMに出演し、かつての神懸かり的イメージを捨て去って等身大のオノレをさらけ出すようになりました。
テレビが人間性のアラの部分まで映し出してしまうことを、若き日の彼らは本能的に察知していたのかもしれませんね。そして結局、金と名声を失いたくないという気持ちに克てなくなったのでしょう。
ムリもありません。ニューミュージックはとっくにオールドミュージックになり果てているのですから。
時の移ろいというものは残酷です。
◇ ◇ ◇
昨夜、日本テレビが『あの日に帰りたい。 東京キャンティ物語』という「ドラマ+疑似ドキュメンタリー+スタジオでの歌」で構成された音楽ドラマを放送してました。主に参考にされたのは、野地秩嘉著『キャンティ物語』(1994年)です。
あくまでユーミン(松任谷由実)のデビュー秘話がメインで、キャンティとその創業者夫妻についてはうわべをさらっと触れる程度でした。
タイアップ臭(もちろんユーミンの新アルバムとその宣伝をサポートするJ-WAVEのことでキャンティはダシということ)が芬々としている上、最近の人気歌手の起用にも必然性が無く、
まぁ数字がすべてのテレビではこんな感じにせざるを得ないのだろうな、というのが率直な感想です。
それでも、過去のテレビ番組でキャンティと有名人の関係について触れているのは、たいてい六本木とか東京タワーといったテーマの時くらいでしたから、とりあえずキャンティを正面から取り上げた功績は特筆に値します。
ところでこのドラマを見てキャンティに行ってみようと思ったアナタ、それだけであのレストランに行くのはやめたほうがいいでしょう。そういう感覚自体があまりにスノッブすぎてキャンティの客としてはちょっと相応しくありません。せめて野地氏の『キャンティ物語』くらいは読んでおきたいところです。しかし間違ってもその本の受け売りを店内で口にしてはいけませんヨ。キャンティへ行くという行為の完成度がガクッと落ちますから。
あゝ、ほんとうの『六本木野獣会』ドラマをもう一度ちゃんと作りましょうよ。