010 こまっちゃうナ
エレキがデンデケデケデケ、ドラムがズントトスッタ…のベンチャーズ・サウンドが若者に熱狂的に受け入れられると、レコード会社はいわゆる〃リズム歌謡〃〃エレキ歌謡〃なる若向けの曲を量産するようになりました。
その中からは、いづれこのコラムでも採りあげる予定の『涙の太陽』『回転禁止の青春さ』『恋をするなら』といった名作が生まれました。リンダの『こまっちゃうナ』もそうした時代の、ズントトスッタな歌のひとつでした。
作詞・作曲:遠藤実。歌:山本リンダ。発売:1966(昭和41年)年9月、ミノルフォン。
本名:山本アツ子。結婚したので姓が替わったかもしれません。先日、私以上にファンだという人と話をしました。その人は開口一番「あれもかわいそうな娘です」と言うのでした。
「たしかに1950年代、東京でさえ差別的フンイキでありましたから、外人の多い横浜でもいろいろ大変でしたでしょうし、またお父さんとも縁が薄く、経済的にもご苦労が多かったことでしょう」と私は通りいっぺんのことを申しましたところ、「宗教にのめり込む者はたいていどうしようもない地獄を抱えているものです。今は知らぬが、昔は皆そうだった」とおっしゃる。たしかに1991年当時、テレビのワイドショーで有名信者代表として誰それが悪いんです云々と据わった目で話しているVTRを見た覚えがあります。『どうにもとまらない』のころもそうでしたが、信仰者のイメージとパフォーマンスとのギャップがありすぎるなという印象を受けました。
私の感覚では不幸、とくに経済的不幸が特別なものに思えるようなってきたのは1975年ごろで、家庭の経済も大方横並びに改善されてきた気がしたものです。彼女が育った時代は日本全体が貧乏で、それはもう目も当てられない不幸が右を見ても左を見てもゴロゴロしている、そういうひどい時代でした。彼女は小学生の時に母親に連れられていって入信したそうです。おそらく、苦労しながら娘を育てたその母の愛情と二重写しの形で、信仰というものを受け入れていったのではないでしょうか。私が初めて彼女の存在を知った時はすでにバリバリの子供信者だったはずです。
11歳で『装苑』のモデルになり15歳で歌手デビュー。歌手・モデル・タレントとして大活躍し、経済的にはかなり恵まれたと思われます。しかし反動はやはり来るもので、69〜71年には人気が退潮、TVの出番も極端に減ってしまいました。
数ある不幸の中でも人気を挽回したいという悩みはかなり上等な部類にはいると思われますが、現世での勝利が彼女の信仰のテーマである以上、その時期、改めて自身の信仰に没頭していったことは想像に難くありません。
私は1972年のカムバックの時、またしても歌手再生に成功した阿久悠の手腕に敬服したものでした。と同時に本格派歌手のレベルにはついに達しえなかった様子を目の当たりにして、資質というものは努力では補えないものであるなぁと感じたものです。
2003年1月、ミノルフォンで出したLPジャケットをそのまま使い、『ミノルフォン・イヤーズ』なる全曲集がCDでリリースされました。ミノルフォン時代のシングル盤は8割がた持っていますが、やはり往年のファンとしては見つけたその場で買ってしまいました。私が昔コンピレーションした『面白愉快で懐かし原盤』で使った『ミニミニデート』の宣伝用フォノシートの音源は含まれていないようですね。いや、それでいい、それでいいのです。私の好きだった山本リンダはあの舌っ足らずなおしゃべりを永遠に続けていてほしいのです。妖精のような無邪気さの奥に不幸の影が有るか無しかうっすらと感じられる。それこそ芸能人。彼女は紛れもなく芸能人なのです。
さてひとつ気になることは『こまっちゃうナ』のママが「笑っているだけ」なのは、音羽たかし訳詞『悲しき16才』のパパとママが「ただ笑うだけ」であるのに似ており、作詞する時にイメージしたのではないか、ということです。遠藤先生、いかがですか?
山本リンダ・ホームページ
http://www.linda-yamamoto.com/
(2003年7月10日)
¶postscript―*
稀代の名コメディエンヌ野沢直子が1989年に『こまっちゃうナ』をカバー(写真右)しています。これがまた傑作で……。
(2003年7月15日)
¶postscript―*
有馬敲(ありま・たかし)著『替歌・戯歌研究』(2003年5月25日発売)に、『こまっちゃうナ』の替え歌が2例報告されています。アソコに毛が生えて困っちゃうというその歌は、当時、私も口ずさんだ覚えがあります。
(2004年5月13日)
¶postscript―*
今度は“励まし系”山本リンダ「どうにもとまらない」
来年で芸能生活40周年を迎える歌手、山本リンダ(53)が16日、東京・港区のON AIR麻布スタジオで来年1月13日発売の「どうにもとまらない〜ノンストップ」(キング)の公開レコーディングを行った=写真。
昭和47年の大ヒット曲「どうにもとまらない」を作詞家、阿久悠氏(67)が32年ぶりに書き直した作品。胸元がセクシーな赤いシャツ姿で熱唱したリンダは「今度の歌詞は“励まし系”。アレンジもかっこいい」と出来に大満足の様子。「来年40周年ですが、リンダはとまりません。おばあちゃんになってもとまりません。みんなもとまっちゃダメよ!!」と意気んだ。同曲は、フジテレビ系アニメ「レジェンズ 甦える竜王伝説」(日曜前9・30)のエンディングテーマとして12月26日から放送される。
http://www.sanspo.com/geino/top/gt200411/gt2004111710.html
ヒットはしなかったけれどもいいメロディだという曲に異なる詞をつける、つけ直すという作業は、実は早くから阿久悠氏がやっていたことのひとつ。ただしヒット曲にあたかも替え歌のように別の詞をつけるというのは、氏としても初めてのことでしょう。
(2004年11月17日)
¶postscript―*
リンダ 明大と「狙いうち」成就
歌手・山本リンダ(53)が20日、東京・日比谷公会堂で行われた明治大学応援団の応援団祭「第50回 紫紺の集い」に特別ゲストとして出演。大ヒット曲「どうにもとまらない」などをリーダーとチアーガールとのジョイントステージ披露し、会場を盛り上げた。
今では高校野球などの応援曲として有名なリンダの大ヒット曲「狙いうち」。最初に野球応援曲として使用したのが明治大学応援団だった。リンダも「明大と聞くと、自分の故郷のような感じがする」というほど。それが縁となり、今年初めて応援団との共演ステージが実現した。
吹奏楽部の演奏に合わせ、最新シングル「リンダ」と大ヒット曲「どうにもとまらない」をソロで披露。明治大のチャンスメロディーでもある「狙いうち」を、チアガールの踊りとリーダーの拍手をバックに熱唱した。なかなか見ることができないステージに、会場は神宮球場の学生席以上の盛り上がりとなった。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041121-00000019-dal-ent
(2004年11月21日)
¶postscript―*
ブログ(日記風サイト)から生まれたポーランド出身のキュートな2人組ガールズユニット「Blog27」が、13日発売のアルバム「LOL」で日本デビューする。収録曲「Uh La La La」は山本リンダのヒット曲「狙いうち」を連想させるリズム&メロディーが売り。エイベックスとユニバーサルがタッグを組んだ超異例の共同ベンチャーで日本でのブレークは必至だ。
欧州各国で旋風を巻き越した2人が、ついに日本でベールを脱ぐ。ユニット誕生のきっかけはブログ。05年春、メンバーのトーラ(13)、アーラ(13)が立ち上げ、自ら更新。これまでに計1000万ページビューを記録する人気ぶりで、ブログ上の試聴用曲には連日、アクセスが殺到。たちまち各国で話題となり、同年5月、本国でデビューシングル「Uh La La La」を発売。世界初の“ブログ発の歌姫”が誕生した。
新アルバムは全12曲。ノリノリで歌う“ウ〜ラララ〜”が必殺フレーズの同曲も、もちろん収録されている。英語の歌詞だが、リンダのヒット曲を思わせるリズムはインパクト十分。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060909-00000010-dal-ent
超異例の共同ベンチャー? 怪しいですなぁー。
とりあえずシングルだけでも買っときますか。
(2006年9月9日)