失はれた地平線

映画「失はれた地平線」の舞台(フンザ・パキスタン)
 「失はれた地平線」「チップス先生さようなら」で知られる英国人作家ジェームズ・ヒルトンが1933年に発表した同名小説を、巨匠フランク・キャプラ監督が37年に映画化。アカデミー賞美術監督賞と編集賞を受賞した。シャングリ・ラのシーンはスタジオ内に組まれた大がかりなセットで撮影された。上映時間は2時間12分だが、その後、短縮版が一般化し、完全版は失われたとされる。

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/world/20040928sc22.htm

シングル「世界はまるい」サントラ バート・バカラックが音楽を担当した1973年のミュージカル映画版『失われた地平線(Lost Horizon)』は残念ながら興行的には振いませんでした。
 ただその中の『世界はまるい』(The World Is A Circle)という曲は、今もバカラックの隠れた名作として高い評価を受け、ファンにも支持されています。
 私がむかし作ったドライブ旅行用の車中BGMカセットのラストナンバーがこれでしたっけ。目的地は山奥のひなびた温泉宿。つまり『失われた地平線』のシャングリラ(桃源郷)という見立てです。

(2004年10月3日)
(2009年10月15日 改訂)

追加記事

 武陵桃源(ぶりょうとうげん)=シャングリ・ラの伝説に取材したジェームズ・ヒルトンの小説『失はれた地平線』(Lost Horizon)は、ジャンル分けするならば「秘境小説」ということになると思います。異郷、異世界での体験談は神話・伝説にまでさかのぼるテーマでして、それこそ世界各地に伝承されています。小説では秘境ものは必然的に冒険小説(アドベンチャー・ノヴェル)と結びつき、
 エドガー・アラン・ポー『壜の中の手記』(1833年)、『アーサー・ゴードン・ピムの物語』(1838年)、『メエルシュトレエムに呑まれて』(1841年)
 ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』(1864年)、『海底二万リーグ』(1868年)
 H・R・ハガード(ヘンリー・ライダー・ハガード)『ソロモン王の洞窟』(1885年)
 アーサー・コナン・ドイル『失われた世界』(1912年)
 エドガー・ライス・バロウズ『類猿人ターザン』(1912年)、『地底世界ペルシダー』(1914年)
 エイブラハム・メリット『黄金郷の蛇母神』(1937年)
等々を嚆矢(こうし)とする、
 未踏の地(テラ・インクグニタ)や失われた世界(ロスト・ワールド)でヒーロー、ヒロインが活躍するような大衆文学が量産されていきました。
日本でも、
 国枝史郎『砂漠の古都』(1923年)
 南洋一郎『吼える密林』(1932年)
 橘外男『死の蔭(チャブロ・マチュロ)探検記』(1937年)
 蘭郁二郎『地底大陸』(1938年)
 安倍正雄(=久生十蘭)『地底獣国』(1939年)
など多くの秘境冒険小説が発表されています。
 その最高峰というか決定版となったのが、ウルトラ・バロックとでも形容したくなるくらいにペダンチックな探偵小説『黒死館殺人事件』で有名なあの小栗虫太郎の手になる、『人外魔境』シリーズです。

角川文庫 小栗虫太郎著『人外魔境』1978(昭和53)年6月初版(左)角川文庫 小栗虫太郎著『人外魔境』1978(昭和53)年6月初版。
 そのシリーズ3作目に当たる『人外魔境小説 天母峰(ハーモ・サムバ・チョウ)』は『新青年』1940(昭和15)年1月号に掲載された作品で、ヒルトンの『失はれた地平線』を思わせるチベット秘境もの。今でも一番人気じゃないでしょうか。

 昨今はチベットというと漢民族との対立やレアメタルの話など、およそロマンとはかけ離れた腥(なまぐさ)いニュースばかりが伝わってきますね。
 秘境冒険小説も両度の世界大戦を挟んで次第に衰退していき、冒険の舞台を宇宙や過去・未来などに移していきました。
(2009年10月15日)

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